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狐火⑦

天つ川 帝と巫女のお出ましだ

  文月。

  帝と巫女姫が茅の輪を持参し、貴族の邸を訪問するのが、
  この狐族の乞巧奠。

 「…」 

  玉響姫は憂鬱そうだ。
 
  帝ならまだしも、帝が幼い為、今年は一条の宮が代理の候補として
  上がっていたからだろう。

  ところが、彼は病を理由に辞退した。

  明らかに仮病だ。

  内裏に通じるものなら、筒抜けである。

  それでも帝は許した。

 「それなら上皇に頼もう」

「え、上皇に」

  周囲の者は顔が強張った。

  しかし、玉響はまだ上皇については全然知らなかった。

 「どんな方なのかしら」

 「明日にはお返事が来るでしょう」

 「稲荷の上様、上皇様はどのようなお方なのですか」

 「失礼よ、止めなさい」

  やんわりと嗜めようとする玉響。

  しかし、稲荷の上は全然気にしてはいなかった。

 「見れば分かるわ」

 「…帝に似ておいでとか」

 「いえ、全然似てないのよ」
 
 「お方様!」

 「来たの?」

 「はい」

 「御簾を下ろしなさい」

  ササッ。

 「私が間に座るわ、茣蓙を」

  ドンドンドン。

 「あれは?」

 「あれが上皇用の鼓の音よ。全く騒がしいんだから」 

 「上皇様がおいでになりました」 

 「はいはい、さ、玉響姫」

  玉響姫は几帳を幾重にも囲んだ奥に座る。

 「麗景殿」

 「はい、お上」

 「七夕の件は引き受けだぞ、いや帝が小さくて良かったな」

 「貴方、まさか」

 「いや、浮気ではないぞ。美人は目の保養なのだ」

 「…」

 「玉響姫と申したか、そこにいるのか」

 「誤解を招くから当日までお止め下さいませ」

 「いいではないか、当日は顔は見なければいかんのだ」

 「あら駄目ですわ、帝からお面を被れと条件が付けておいでです」

 「それは帝に嫁ぐ場合がある時だろう、今の帝は八つ。
  そうはなるまい」

 「姫に傷がつきます」

 「そうか、それは残念だ」

 「あとで私が絵を描いて差し上げますから」

  彼女は意外にも絵が得意だった。

 「では、それを神棚に祀っておくとするか」

 「段取りは覚えておいでですの」

 「ああ、大丈夫だ。あんなの行って食べて戻ってくればよい」

  笑いたい。

  玉響に付いている女房は、なんとか堪えようとする。

 「では姫、またお会いしましょう」

 「姫、私も付いていきましょうか」

 「いえ、お方様はお方様のお勤めがあるのですもの。大丈夫ですわ」 

 「そう、でも困った事があればなんでも言って頂戴ね、
  分かってる?」

 「お方様」

 「では失礼するわ。今度は何?」

  ドタバタ。
 
  夫が夫なら妻も妻だった。

  彼女が遠ざかるのを確認してから、腹心の女房が話した。

 「姫様、竜神様におすがりしてみてはいかがでしょう」

 「駄目よ、竜神様はお忙しいもの」

  竜神は検霊府の二大有名人の一人。
  長は雷神と呼ばれ、剣の腕も術の腕でもかなり強い。

  不安に思いつつも、七日はあっという間。

 「姫様、お支度は整いまして」

 「はい」

 「では参りましょう」

  行く順番は検霊府長官が占いで決めている。

  どの邸も趣向を凝らして様々な出迎え方をしてくれた。
  
  玉響が一番印象的だったのは左大臣だ。

  仕える女房のほうがよく受け答えをしていて、
  目に付いたほどだ。
  
  琴の名手だという其の女房は後宮の女御達に引けは取らないほど 
  と噂がある。

  彼は未だに妻子を持たないのは彼女のせいとの噂もあるのだが、
  玉響は其れは聞いた事が無かった。
   
  上皇はもてなしの礼に、こけしを各家に配った。

 (私も何か用意すべきだったのかしら)

  全部を回ってから、御車は宮中へと戻っていく。

  町中には、振る舞い酒が回っていて、人々は陽気に騒いでいるのだった。

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